どれ程の必要が。

バンドマンでモバイラなBlog

PCとDAWをライブで使う


(2016/09/25)
一定数のアクセスがあるので一部修正・追記しました。
おすすめ機材の紹介を最新のものに更新し、CUBASEを使った同期演奏の設定方法や手順を具体的に記載しています。

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これまでMTRをはじめ、CDプレーヤーやMP3プレーヤー、はたまた黎明期のスマートフォンなど、色々な機材を使って同期を流してきましたが、今年に入ってからノートPC+CUBASEという組み合わせでライブするようになったので、概要と手順を備忘録として書いておきます。

既にDAWで作曲をしていて、これからPCを使ったライブを考えている人、メンバーの欠員を打ち込みで補おうと考えているバンドの参考になれば幸いです。

同期とは

同期とは、必要なトラックをライブ演奏に合わせて再生するための仕組みを指します。

ドラマーがいなければドラムを、キーボードがいなければシンセ音を、あるいはボーカルが多重録音したコーラスパートなど、メンバーが足りないパートや人間が出す必要のない装飾音などを再生することができます。
「音はすれども姿は見えず」というやつで、ソロでの活動やミラのように始めから同期ありきのユニット編成、あるいはライブを目前に急にメンバーが脱退してしまったバンド(悲しいね)にとっては、とても便利な仕組みです。

もちろん、フル編成のバンドがプラスαのアレンジや音源の再現を目的に同期を使うことも多々あります。同期の基本的な概念についてはこのへんを参照。

ソロやドラムレスのユニット編成であれば、MP3プレーヤーやスマートフォンでいわゆるカラオケ音源を再生すれば良いんですが、「シンセをメインのPAから、ギターとベースをそれぞれアンプから流しつつ、ドラマーにクリックを送る」みたいなことをやろうとするとそれなりの準備が必要になってきます。

MP3プレーヤーやスマートフォンは通常、音の出口はLとRの2つしかありませんが、上の例だとLとRだけでは出力したい音の数が足りません。そのため専用の機材を使って複数の音を別々に出力(マルチアウト)してやる必要があります。自分の場合は今までこれをMTRでやってきていて、古くはRoland VS-880FOSTEX VF08、最近だとZOOM R8を使ってライブをしてきたんですが、PCのHDDをSSDに換装したことをきっかけにPCメインのシステムに完全移行しました。


余談ですがこの「R8」も凄く良い機材です。安定性、確実性という意味では、PCを使ったシステムよりも良いかも。購入先のサウンドハウスさんにレビューを寄稿してますので、興味があればソチラも見てみて頂ければ幸い。

同期再生に適したPC

PCからオケを出す場合、PC自体の性能とオーディオインターフェースの性能の両方が重要になってきます。

PCについては最近のものであればあまり高価なものでなくても大丈夫ですが、DAWが安定するだけのメモリと、音飛びを防ぐためにSSDを搭載したPCを使うことが最重要ポイントです。
あとはやりたいことの複雑さとの兼ね合いになってきますが、単純なオーディオのマルチアウトであればCPUパワーはそこまで重要ではないので、ここ2~3年内に発売されたPCであればCeleron搭載モデルでも問題ないかと思います。
VSTiやVSTエフェクトをリアルタイムに出すのであれば、その分良いCPUが必要になってきますので、Core iシリーズ搭載のモデルが望ましいでしょう。

とにかくHDDではなく、SSD搭載のものをオススメします。
HDDは振動に弱く、「低音による振動やディレイの発振音にやられて音飛びしたり、最悪システムが落ちる」といったトラブルはMTR時代からの「同期バンドあるある」でした。SSDは振動にとても強いので、この問題がほぼ回避できます。
またPC自体の起動やプロジェクト立ち上げも早くなるため、転換が始まってから起動しても問題なく間に合うというメリットもあります。

PC購入時には必ずストレージの種類を確認し、SSDのモデルを選択するようにしましょう。また既にHDD搭載のPCを使っているという方は、ちょっとの手間でSSDに換装出来る場合も多いですので、自己責任にはなりますが試してみる価値は充分にあるかと思います。

自分の現在のメインPCのスペックはこんな感じ
まごうかたなき「一昔前のPC」ですが、これで演奏中に音飛びしたりなどの致命的なミスが起きたことはいまのところ一度もないです。
Core iシリーズのCPU搭載、SSD搭載、メモリ4GB以上搭載のモデルであればまず問題ないかと思います。

同期再生に適したオーディオインターフェース

オーディオインターフェースについては、インプット/アウトプットの数が重要になってきます。
サウンドハウスの「USBオーディオインターフェース」の一覧を見てみると「2in/2out」とか載っていると思いますが、これは要するに「いくつ音を同時に入力/出力できるか」ということです。
ここで重要なのは「アウトプットがいくつあるか」という点で、上の例で行くと、シンセとギター、ベース、クリックで最低4つのアウトプットが必要になります。もちろん「シンセをステレオで出したい」とか「ギターを2本、別々のアンプで鳴らしたい」とか考えだすと、その分更にアウトプットが必要になります。
結局は値段との兼ね合いになってきますが、購入しやすい価格帯で、可搬性の面でも実用的なインターフェースは4in/4outが多いのかなと思います。

自分が現在ライブで実際に使っているのは、NIのAUDIO KONTROL 1という、2in/4outのオーディオインターフェースです。旧いモデルですがドライバの安定度が高いこと、頑丈なメタルシャーシで遠征に向いていることから愛用しています。

今買うなら後継機のKOMPLETE AUDIO 6かな。まあこれももうだいぶ昔からある製品ですが、デジタル入出力を含めて6in/6outと非常に実用的。万一買い換える必要が出てきたらコレにする予定です。



(2016/09/25追記)
今年の6月にZOOMから発売された「U-24」というインターフェースがライブでの使用を考慮して作られているようで、すごく実用的な感じがします。コンパクトミキサーのような見た目で、特にヘッドフォンアウトに「LINE OUT1-2」と「LINE OUT3-4」のバランスを調整して送れる機能が良いですね。
フル編成のバンドがPAに2mixの同期を渡しつつ、ドラマーにクリックを送る時には最適かも知れません。
R8もそうですが、ZOOMさんはこのあたり本当によく研究してるなあと感心します。
欲しい機能がちゃんとついてる機材ってありがたいです。凄くリーズナブルだし、イチオシです。



その他自分が試したところでは、はくあさん所有のRoland UA-55 QUAD-CAPTUREをライブで使ったこともありましたが、これは大定番モデルだけあって、さすがに安定していたし音も良かったです。

このモデルは4in/4outですが、イン/アウト共に2つはデジタル入出力なので、ライブでアウトプットをフルに使おうと思うとD/Aコンバータが必要になることに注意。
デジタル出力を受け付けてくれるライブハウスはまず無いと思いますので、もしこのモデルを既にお持ちでライブでフル活用しようと考えている方は、必ずD/Aコンバータを買いましょう。自分はオヤイデ電気fiioシリーズのコンバータを所有していますので、それを使いました。
 

音質については48kHz/24bitで出力できれば問題ないと思いますが、ノイズが乗らないようにUSBケーブルは少し良いモノにしたいです。
オヤイデ電気のこのケーブルがおすすめ。色がポップで可愛いです。


DAWの設定

PCとインターフェースが準備できたらDAWの設定をします。
ここではCUBASEを例に進めて行きますが、他のDAWでもやることはだいたい同じだと思いますので、他のDAWをご利用の方は適宜読み替えてください。

---準備---
同期演奏に使用したいトラックを用意します。

【例1】「ボーカルとギターのみの編成、リズム隊不在」の場合
①ドラム(2mix)
②ベース(モノラル)
③その他の上モノ(シンセや効果音、コーラスなど。2mix)

【例2】「4ピースないし5ピースのフルバンド編成、シンセを同期する」場合
①クリック(モノラル)
シンセや効果音(2mix)
③コーラス(2mix)

といった感じで、だいたい3パート、多くても4パートくらいに分けて書き出したWAVデータを用意しています。
もちろんアウトプット数の多いインターフェースを使っている場合はもっと細かく分けて書き出すことも考えられるんですが(ドラムをキック・スネア・金物とその他に分けるとかね)、パートが増えればその分扱いが面倒になってきますので、苦労なくコントロールできる範囲で分ければ良いかと思います。
どこにこだわるか?で決めても良いと思います。例えば友人のバンドマンはキック(バスドラム)は必ず別トラックで出していました。

トラックの準備ができたら、まずはデータをDAWに並べます。
他の人がどうやってるのかは全く知らないんですが、自分の場合はこんな感じで、一回のライブを一つのプロジェクトとして保存しています。

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いちばん上は「マーカートラック」です。曲の頭出しに使いますので、必ず作成しましょう。メニューの「プロジェクト」→「トラックを追加」→「マーカー」で作成できます。

トラックデータはセットリストの順に並べておきます。
曲間のインターバルも考慮して、不自然に曲間が長くなったり、あるいは短すぎて次の曲の準備ができないというようなことがないように気をつけて並べましょう。

曲順通りに並べたら、曲の頭にマーカー打っていきます。
「Ctrl+数字キー」で、現在のカーソルバー位置にマーカーを追加できます。
こうしておくことで「Shift+数字キー」を押すと任意のマーカーへジャンプしますので、リハで「じゃあ3曲めやるか」となった時には「Shift+3」を押して頭出しする感じです。また、「Shift+N」で次のマーカーへ、「Shift+B」で前のマーカーへ移動できます。実際にライブの時には曲番号ではなく、こっちのショートカットを使うことの方が多いかも。

制作時はマウスオンリーの方も、ライブの時は最低限のキーボードショートカットは使えたほうが便利かも知れません。準備はここまで。

---設定---
まずはオーディオインターフェースの設定をします。

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メニューから「デバイス」→「デバイス設定」を開いて、オーディオインターフェースのドライバが選択されていることを確認します。
※VSTエフェクトなどでリアルタイム処理する必要がない場合(単にトラックの再生だけしたい場合)、レイテンシーは関係ないので多少余裕のある設定にしておきます。

次にメニューから「デバイス」→「VSTコネクション」を開いて、アウトプットのバスを増やします。
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バスというのは要するに音の出口のことで、初期設定だとどんなインターフェースも「Stereo Out」ひとつしかありません。このままだとLeftとRight、2つしか音が出ないことになります。

「出力」タブをクリックして、「バスを追加」を押下するとダイアログが出るので、そのまま「バスを追加」をクリック。

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使用できるバスが増えました。
この時、新しく作成した「Stereo Out 2」の「デバイスポート」がそれぞれ「Out 3」「Out 4」になっていることを確認してください。もしここが「Out 1」「Out 2」となっていたら、文字列をクリックしてそれぞれ「Out 3」「Out 4」を選択します。

※オーディオインターフェースのアウトプット数と同じだけ増やせます。
自分の使っているAudio Kontrol 1は4Outなのでこれで上限です。

バスが増やせたら設定画面を閉じて、トラックの設定に移ります。
今回は「【例1】で、ベースをパラアウトしてベースアンプを鳴らす」ことを想定して進めてみましょう。ベースのトラックを選択して、左側のトラックインスペクターからアウトプットのルーティングを設定します。

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先程バスの設定で作った「Stereo Out 2」の「Left」を選択。
これでベースが「Out 3」から鳴るようになりました。

オーディオインターフェースの「Out 3」からシールドを繋いでベースアンプを鳴らしても良いですし、会場によってはDIへ入れてPAへ渡しても良いと思います。
どちらにしてもドラムやその他のオケとは分離しているので音量調整が楽ですし、ベースアンプが鳴っているのといないのではステージの中の音圧が変わってきますので、演奏する側によりライブ感が得られます。アンプからマイキングしているライブハウスであれば、出音にもアンプ感が足されて生演奏っぽくなりますね。もちろん、打ち込みのベースではなくて録音したベース音であれば、生演奏感は更に増します。
まあ弾いてる人がいないので、ステージの上は寂しいんですが…。

以上を繰り返して、トラックごとに必要な設定を終えます。
今回はベースのパラアウトを例に進めましたが、ギターでもクリック音でも同じです。
いずれにしてもCUBASE内ではトラックが分かれているので、例えばリハで「1曲目だけちょっとベースが小さかったな」とか思った時にも諦めなくて良いのが利点です。

更に自分の場合はギターアンプとエフェクターもNIのGuitar Rig 5 ProでPC内部完結するようにしているため、ギター用のトラックを別途用意してOut 4にモノラルで振ってギターアンプへ繋いでいます。PC内部で音作りが完結するので、スタジオやライブハウスで音作りで悩まなくて済みますし、なんというか音源と同じ音でライブができる言文一致感が個人的に心地良いです。

     *  *  *

以上、ざっとですが自分が普段行っている設定について説明してみました。
マルチアウトできて音質良好、トラックがDAW内部で弄れて利便性も向上と良いことずくめですが、MTRなどの専用機と比べると配線が面倒だったり、DAWによってはドングルを持ち運ぶ必要があるなどデメリットも確実に存在します。

特に上位版のCUBASEを使ってる人など、出先でさんざん使う場合はマジでドングルを失くすので気をつけてほしいです。出来ればライブ用にElementsかAIを入手して、SSDにライセンスを埋め込んで使いましょう(実際に失くした者心の叫び)。
ドングルによる余計なでっぱりもなくなって、狭いステージでの取り回しも良くなるんじゃないかと思います。

このシステムでライブをした時に、実際にどんな困ったことが起きたか?
PCを使ったライブでよくある困った事例と、その解決法は別記事で書きたいと思います。お楽しみに。

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